ユニセックスからの訣別
シリコンバレーでは、今年は人間の脳を解明する年になるといわれている。研究者の関心が高まる中、女性の脳を分析した本が現れた。Louann Brizendineによる The Female Brain である。彼女はカリフォルニア大学バークレー校で神経生物学を専攻し、エール大学で医学博士号をとり、その後ハーバード大学付属の精神医学センターで精神医学の訓練を受けた専門家である。長年、女性専門の精神科医として活躍している。著書を掻い摘んでまとめると次のようになる。
人間は約3万個の遺伝子を持っているが、男女でほとんど違いはない。性を区別する1%の遺伝子が違うだけである。近年PETや機能MRIの発達で、脳の内部を生体観察できるようになった。その結果、脳の構造、化学物質、遺伝子、ホルモン、機能において男性の脳と女性の脳には際立った違いがあることがわかってきた。
受精時に、女性はXXの染色体を持つのに対し、男性はXYの染色体を持つ。男子の胎児は胎内で大量のテストステロン(男性ホルモン)を浴び、男性としての機能を備えていく。一方、女子の胎児は誕生して6ヶ月から24ヶ月の間に体内で大量のエストロゲンが分泌され、女子特有の言語能力、感情表現をするようになる。
少女期に、女子の脳は男子の脳より2年早く成長する。感情と記憶形成をつかさどる海馬も女子のほうが大きく言語能力に優れる。女性は男性に較べて生涯にわたっておしゃべりである。男性は一日に七千語しゃべるが、女性は一日に2万語しゃべる。これは女性が人と人との関係を重視し、言葉によって親密な関係を作ろうとする欲求が強いことに起因している。
思春期になると、男子はテストステロンとアンドロゲンの分泌により、闘争を好み、独立性を好む男性的な性格が現れる。女子はエストロゲンとプロゲステロンの分泌により、争いを好まず、他人との協調を好む性格が現れる。初潮後の女子は、エストロゲンとプロゲステロンが月に一度の周期で乱高下し感情の起伏が大きくなる。ホルモンが多く分泌される思春期に入ると、女性はちょっとしたことで意気消沈したりするようになる。この時期の女性のストレス耐性は、男性の半分しかない。
女性は言語によって人間関係をスムーズに進めようと勤めるが、人間関係(特に異性関係)がうまく行かなくなると、セロトニン、ドーパミン、オキシトシンといった絆(きずな)ホルモンが後退し、代わってコルチゾールといったストレスホルモンが活発になり、女性は強いストレスに悩まされるようになる。思春期の女性に精神障害が出やすいのは、こうしたホルモンの働きに起因する。
女性も、男性ホルモンと呼ばれるテストステロンを持っている。テストステロンは性欲を刺激するするホルモンである。8歳から14歳の間に男性のテストステロンは25倍に増加するのに対し、女性のテストステロンは5倍にしかならない。青年期には男性のテストステロンは女性の10倍になる。男性は女性との性的な交わりを空想し、女性よりはるかに強い性的衝動を持つようになる。
女性の性欲は妊娠と密接に結びついている。結婚してしばらくすると、身近にいる新生児の匂いを嗅ぐだけで、赤ちゃんを産みたい衝動に駆られるようになる。これは新生児の頭から出るフェロモンが女性の脳を刺激して、オキシトシンの分泌を促すからである。女性は妊娠すると体内に大量のオキシトシンが分泌され、脳内の母性回路が活発化する。女性は新しく生まれてくる胎児にきめ細かい注意を払い、慈愛することに専念するようになる。
妊娠中に母親の血液供給と胎児の血液が結合すると、脳に大量のプロゲステロンが分泌され、母親は極めて安定した精神状態に入る。この時期にストレスホルモンは高いレベルになるが、不思議なことに母体はストレスを感じなくなる。ただし、赤ちゃんのことに専念するあまり、ほかの事には注意散漫になる。仕事を持っている母親はこの時期に、仕事との両立が難しい精神状態に立たされる。
女性は出産後数日して、自分の赤ちゃんの匂いを嗅ぎ分け、遠くにいても泣き声を聞ける能力を身に着ける。母親の脳内回路は子育て回路一色になり、子供の一挙手一投足に気を配るようになる。これはオキシトシンの作用である。また、子育ての過程で生じるドーパミンの作用によって、母としての幸福感を満喫し、出産前のように物事をネガティブに考える回路がオフになってしまう。ただ、夫とのセックスをすることの優先順位ははるか下に行ってしまう。
子育てを終わり、閉経期に入ってくると女性の脳はまた変わる。この時期は子供が巣立つ時期であり、子育てに必要なホルモンが見る見る減少し体の変調を訴える時期である。この時期を通り過ぎて次に向かうのは、自分自身のことである。すなわち、自分以外の人(子供、夫、親族)に尽くそうとする気持ちは薄れ、自分の望むことを実現しようとするようになる。以前には人間関係を良く保とうとした気配りは薄れ、「大切なのは自分」といった心理が大きく支配するようになる。これが女の一生だという。
この著書を読んで、「女性の人生はいかにホルモンに作用された人生であるか」に驚かされた。女性に較べれば、男の人生ははるかに単純である。性欲の高揚・減衰はあるものの、それ以外は一直線の人生である。ところが女性の人生は、人生のそれぞれのステージで大きく変遷する。ものの考え方、感じ方、行動様式はステージごとに異なる。
日本では今年から公的年金の半分は、離婚後の妻に支給されるようになった。熟年離婚はこれからさらに増えるだろうが、離婚を持ち出すのは圧倒的に女性のほうが多い。日本では申し立ての8割は女性から出されるが、米国でも65%と高水準である。子供が巣立つ頃になると、女性は自分が必要でなくなったことの失意に襲われ、自分の人生を取り戻そうと離婚を決意する。これも更年期のホルモン減少のなせる業なのである。
この本は、核家族化の問題についても触れている。仕事に忙しくて十分な時間を子育てに割けなかった母に育った女子は、不安感を抱え、ストレスに弱く、病弱な子供に育つ可能性が高いという。この形質は、祖母、母、娘と三代に渡って女性だけで引き継がれるという。自分が母親から十分に親の愛情を受けられなかったことを、また娘にするという。
人間の肉体は長い時間を経て徐々に進化してきた。太古の時代に人間は核家族ではなかった。家族は近い親族と一緒に住み、子育てで母親の代わりをする「仮親」が周りにたくさんいた。こうした「仮親」が忙しい実母に代わって、子供の面倒を見た。その結果、ストレスに弱い女の子が出てくる確率は低かったが、近年の核家族化で新たな問題がでてきたとしている。
女性はこの30年間に、仕事でキャリアを積み、男性から経済的自立を果たせるようになった。また、医学の発達で子供を持つ時期をコントロールできるようになった。日本でも、85年に男女雇用機会均等法が成立し、女性の社会進出は一般的になった。その後、小泉首相時代のいくつかの改革を経て、日本はこれからアメリカ型の格差社会に入ろうとしている。賃金は減り、既婚女性が働かなくては家計を支えられない世の中になってきた。
米国では70年代には「ユニセックス」という言葉が流行し、男女間に性差がないことを強調した。それ以降、性差を発言することは「政治的なタブー」とされてきた。しかし、この10年間の医療機器の発達で脳を生態観察できるようになり、男性の脳と女性の脳は大きく異なっていることが明らかになってきた。米国ではまだ「政治的なタブー」は生きているが、これから性差を認める研究が多く出てくると見られる。
最近、精神障害を訴える10代後半から30歳代の未婚女性が増えている。これは男女平等制度と女体が持つ本来の機能との板ばさみになって起こっているように思う。平等化は女性に機会を与えると同時に、苦痛も与えてしまった。これからの制度改革は性差を前提として行わないと、今後長きに渡って禍根を残すことになりかねない。ユニセックスから訣別する時が来たようだ。
専業主婦の地位を高め、育児期の数年間は男の収入を引き上げ女が働かなくてもいいような仕組みが必要である。
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